とりとめのない日々の出来事
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続き
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:10:39.42 ID:QpdAQDVL0 [14/64]
 男の人が吹っ飛ぶなんて異常事態だ
 ひょっとして誰か危ない人でも混ざってたんじゃ!?


春香「あっ、千早ちゃん!」


 そう、私より早く速く駆けだした千早ちゃんが危ない!
 ケガでもしてたら……いや、それより警察に連絡とかしたほうがいいのかな!?

 心配になって携帯を取り出した時、また一人吹っ飛んだ
 よく見れば、その人がいた場所に立っているのは……


春香「千早……ちゃん?」


 コンサートの時ですら、ここまで激しいダンスはしないのに
 華麗に舞うように人を蹴り飛ばした千早ちゃんが、そこいる

 よくよく見れば、千早ちゃん以外の人達も殴りあったり蹴りあったりしているのもわかった
 女の人も、男の人もいる。異常な空気があたりを包んでいる


春香「ど……どういうこと?」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:22:37.75 ID:QpdAQDVL0 [15/64]
 これは、どういうことなんだろう?
 警察に連絡しようとした手を止めて観察してみる

 ……なるほど、これは弁当の取り合いに間違いないみたいだ
 半額弁当を取る、って話を聞いててっきりスピード勝負なんだと思ってたけれど……
 これはもっと物理的な奪い合いなんだ

 弁当に手を伸ばす人がいれば、別の人がそれを払って自分のものにしようとする
 それをまた邪魔する人が現れて……弁当に遠い人や、弾かれた人へ追い打ちの類はかけられていない


 その争いの中、長い茶髪の女の人が一瞬の隙をついて焼きそば弁当を手にとった
 今にも殴りかかろうとしていた人たちも別の方へと向きを変えその人の道を開ける

 悠然とこちらに向かって歩いてくる茶髪の人は私に向かってそっとささやくとそのままレジへと向かった


茶髪「……新人さん? あなたの友達はがんばっているみたいだけどいかなくていいの?」

春香「……えっ? あっ」


 そうか、なにか違和感があると思ったら……千早ちゃんはお弁当に手を伸ばしてない!
 誰かが伸ばす手を弾くことに集中しているんだ

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:45:20.54 ID:QpdAQDVL0 [18/64]
 千早ちゃんは弁当へと背を完全に向けてしまっている
 これじゃ、とれるはずもない! 私のために……?

 次々と弁当に伸びる手を弾いていくけれど、やっぱり厳しいみたいで少しずつおされているのがわかる
 さっきまであった焼きそば弁当が無くなって人が集中してきてるんだ
 そのうえで私が欲しいっていった竜田揚げ弁当と自分の食べる豆腐ハンバーグ弁当を守るだなんて
 

千早「くっ!」

春香「……いかなきゃ!」


 いつまでもぼーっとみていられない!
 いまさらながらあわてて人ごみに突っ込む

 後ろからいくぶんには、抵抗は少ないみたいだ
 だけどだんだんと周りの圧力が強くなってきているのもわかる

 だけど、まだ進める! 千早ちゃんががんばってくれてるんだから私だって
 私だって、お弁当が食べたい!

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:52:14.01 ID:QpdAQDVL0 [19/64]
 どうにか弁当の見える位置までたどりついた
 ギリギリで持ちこたえている千早ちゃんと目があう


千早「春香……!」

春香「千早ちゃん、ごめん! ありがとう!」


 遅れてしまったことへの謝罪と、守ってくれていたことへのお礼
 それを簡単に伝えると、千早ちゃんは少しだけほほ笑んでくれた

 前へ前へと進んできた道はもう既にうまってしまっている
 あと数歩、それでお弁当に手が届く!


春香「んーっ!」


 そのままの勢いで竜田揚げ弁当へと手を伸ばす……あと、ちょっと
 ビニールに指が触れそうになる、あと、ちょっとだけ

 その時、お腹に強い衝撃を受けて届きかけたお弁当からひきはがされてしまった

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:59:31.48 ID:QpdAQDVL0 [20/64]
春香「うぐっ……!?」

坊主「すまねぇな、嬢ちゃん……同じ弁当を狙う以上遠慮は無しだ」


 どうにか体制を整えてそちらを睨む
 最初に吹っ飛んだ坊主の人だ

 本当に遠慮なく叩いてくれたみたいでズキズキする


春香「……私、お腹が減ってます」

坊主「奇遇だな、俺もだよ」


 坊主の人はニヤリと、不敵に笑った
 男だからとか、女だからとかじゃない……この人は強い!


春香「……遠慮しませんよ」

坊主「お互い様だろ」


 少し体勢を低くする
 さっきまで騒がしかった周りは、ほとんどの人が立ち上がれない状態みたいだ

 この人を倒せれば、お弁当が食べられる……!

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:06:43.02 ID:QpdAQDVL0 [21/64]
 ちらりと目をやると、千早ちゃんは豆腐ハンバーグ弁当をとったようだ
 ここから先は、私とこの人の戦いってことなんだろう

 人の手を借りて、とるんじゃなく……自らの手で、勝ち取る!


春香「あぁっ!」

坊主「おぉぉっ!」


 気合を込めた私のパンチが、坊主の人の拳をはじいた
 自分でもどこからこの力が沸いてくるのかわからない

 でも―――楽しい!


春香「まだまだぁ!」

坊主「うおおおぉぉ!」


 パンチの応酬が続くけど、ちょっとずつ私の方がおしてるみたいだ
 あと少し……あと少しで……

 その時だった

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:10:17.21 ID:QpdAQDVL0 [22/64]
顎鬚「あの……正直すまんかった」


 声をかけられて、振り向く


春香「え?」

坊主「あ?」


 そこには、顎鬚の男の人がたっていた

 ―――手に、竜田揚げ弁当を持った状態で


春香「あ……」

坊主「……おい」

 坊主の人が、怒気をはらんだ声ですごんだ

顎鬚「いやな、だってお前らだんだん弁当コーナーから外れるんだもんよ……つい」

坊主「ついじゃねぇ! 勝利の一味はどうした!」

春香「……はは」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:17:09.19 ID:QpdAQDVL0 [23/64]
 そんなわけで、私の初めての弁当争奪戦は敗北に終わる
 ショックで食欲が……なくなるかと思ったけれど身体は正直だ


春香「……お腹すいたぁ」

坊主「あー、今日は災難だったな……まぁ惣菜を選べるだけマシだと思おうぜ」


 さっきまで殴りあっていた坊主の男の人と、軽い会話をする
 なんだか不思議な気分だ。すがすがしさすら感じてしまう


春香「もー、卑怯ですね顎鬚さん!」

顎鬚「うっ……腹が減ってて……」

坊主「まったく、だらしねぇな?」

顎鬚「だがなぁ、周りの確認を怠ったのはお前だろ? そっちのお嬢ちゃんはともかく……」

坊主「それはそうだけどよ」


 冗談も言えるぐらいだ。すごい……半額弁当って、すごい!

 ……そんなことを思いながら、お惣菜でおにぎりとナスのてんぷらを
 さらにカップ麺コーナーでどんべえを買った 


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:26:09.96 ID:QpdAQDVL0 [24/64]
千早「……残念だったわね、春香」

春香「千早ちゃん……」

 レジの向こう側で、千早ちゃんは待っていてくれた
 どうやら何があったかはわかるらしい

千早「初めからうまくいくことなんてないわ……すごかった」

春香「うん……私、おちこんでるんじゃないよ?」

千早「え?」

 千早ちゃんは私がへこんでいるんだと思って励ましてくれたけれど落ち込んでなんかいない
 次回への燃えあがる思いが、胸の中にあるだけだ

春香「……すごいんだね、半額弁当って」

千早「……えぇ」

 私は認識を改めた
 半額弁当は、少なくともくだらないものじゃないって

 きっと、次回こそ私は勝って、買ってみせると
 そう決意した時、千早ちゃんのお弁当を温めていたレンジが高い音を鳴らして温め完了を知らせた


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:35:39.75 ID:QpdAQDVL0 [25/64]
千早「……春香、そこのベンチで食べましょうか」

春香「うん」


 外のスペースに腰かけて空を見上げる
 満天の星……なんてものは見えないけれど、なんだか輝いている気がした


千早「春香は……いいセンスをしてると思う。初めてなのに腹の虫の加護まで受けてた」

春香「腹の虫……?」

千早「えぇ、腹の虫」


 聞き覚えのない単語について質問してみたけれど、オウム返しにまた戻されてしまった
 私の聞き方が悪かったのかと思って、もう一度聞こうと思った時、さっきの坊主の人がそばに来た


坊主「……よう、いいか?」

千早「春香がいいのなら」

春香「あ……どうぞ?」

坊主「ありがとよ」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:46:14.53 ID:QpdAQDVL0 [26/64]
坊主さんはそのまま私の隣に腰をおろして話を始める


坊主「流石は≪チョッピング・ボード≫の知り合いってところか」

千早「いいえ、これは私がどうこういったからじゃないわ……来たの自体偶然だったのだし」

坊主「……だから最初あんなに不審な行動を? 豚かと思ったぜ」

春香「ぶ……ぶたって、ひどくないですか?」


 私だって乙女だ
 ブタ呼ばわりされていい気分にはならない

 抗議しようと思った時、千早ちゃんに静かに止められた


千早「春香……最初に言ったことは覚えてる?」

春香「最初って……えーっと」

千早「知らなかったのよね……なにも」


 あぁ、最初ってあの急に手をひかれた件のことか
 私は納得して、肯定の意味を込めてうなづいた


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:53:53.94 ID:QpdAQDVL0 [27/64]
春香「う……うん。何か意味があるの? それに、さっきから千早ちゃんが呼ばれてるちょっぴんぐぼーどって?」

千早「……話してもいいんだけれど。それよりも」

坊主「腹減ったんじゃなかったのか? 伸びるぞ、どんべえ」

春香「あっ!?」


 まずい、すっかり忘れかけてた
 千早ちゃんが温め終わってからだから……若干伸びてる?

 不安に思いつつもぺりぺりとどんべえの蓋をはがすと、おいしそうな出汁の香りと湯気がたちのぼってくる
 さすがどんべえだ。多少長くおいておいてしまった程度では風味もつゆも失われていない


春香「だいじょうぶそう……かな?」

千早「そう……よかった。私も食べようかしら」


 そういって千早ちゃんがお弁当のふたをあける
 温められふたの裏に溜まっていた水分が塊となってふたの裏を伝って千早ちゃんの服にしたたった

 普段ではなんでもないその程度のことが、やたら艶やかにみえる
 これも、お腹が減っているからなんだろうか?


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:00:23.45 ID:QpdAQDVL0 [28/64]
千早「……? 春香?」

春香「あっ、ごめん! なんでもないよ?」


 そう、なんでもない。ちょっとお腹が減ってるだけだ

 割り箸を割って、おあげが汁を吸うように軽く押し込む
 さらにそこへさっき買ったてんぷらを放り込んだ

 どんべえの上に置いておいたおにぎりも、外側だけがほのかに温かい

 十分に豪華……とはいえないまでも、ちゃんと晩ご飯の体はなしていた


春香「……うん、いただきます!」

千早「じゃあ私も……いただきます」

坊主「いただきます」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:07:09.68 ID:QpdAQDVL0 [29/64]
春香「んんー! やっぱりどんべえはおいしいなぁ」


 ずいぶんとひさしぶりに食べた気がするけれど、どんべえのその味は変わってなかった
 優しいお出汁に甘めのおあげ。つゆをたっぷり吸ったそれはかじれば期待通りの味を返してくれる

 むしろ、以前に食べた時よりおいしいような気もする
 これもお腹が減っているからだろうか?
 ―――いや、違う


春香「これも、絶え間ない研究の結果か……私ももっと頑張らなきゃ」


 そう、うどんの麺のコシが増しているんだ
 ちょっと長くおいてしまったのにそのコシは失われていない
 これも、よりおいしいものを届けようというメーカーの人達のおかげでもたらされたんだ

 よりいいパフォーマンスを届けようと努力する私達アイドルに通じるものを感じる

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:14:50.94 ID:QpdAQDVL0 [30/64]
千早「春香……」

春香「どうしたの、千早ちゃん?」


 千早ちゃんが若干いぶかしげな目でこちらを見ている

 さては千早ちゃんはどんべえをあまり食べ慣れていないんじゃないだろうか?
 それで、私の感動が伝わっていないんじゃないだろうか?
 それはいけない。もったいない


千早「……いえ、なんでもないわ」

春香「遠慮しなくてもいいよ? ひとくちわけてあげましょー!」

千早「そういうことじゃ……んっ」


 なにかいいかけた口へと汁に浸して柔らかさを持ちつつまだ表面のサクサク感は残した
 最高の状態のちくわのてんぷらを突っ込んだ

 千早ちゃんはまだ何か言いたげな表情はしていたけれど、静かに噛み切るとそのまま咀嚼しだす
 うんうん、素直が一番だよね!


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:24:01.07 ID:QpdAQDVL0 [31/64]
千早「……ん、確かにたまにはいいわね」

春香「でしょ?」


 ある程度噛んだあと、千早ちゃんはちくわを飲み込んだ
 不満げな表情も和らいだようでなによりだ

 おいしいものはいいものだ。生きるってすばらしい!

 ……千早ちゃんのお弁当もおいしそうだなぁ


千早「……春香」

春香「あっ、なぁに千早ちゃ……んっ」

千早「おかえしよ」

春香「……んん」


 私の口の中へ千早ちゃんが箸を入れた
 もちろん、箸だけを突っ込むなんていういやがらせじゃなく……これは


春香「おいひい……」


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:30:34.11 ID:QpdAQDVL0 [32/64]
千早「……ふふ、気に入ったならなによりよ」


 千早ちゃんがいたずらっぽく笑う
 豆腐ハンバーグをひとくちサイズに切って口の中へ入れてくれたみたいだ

 最初は、上にかかっているとろみをおびたあんの風味だけを感じたけれどそれだけじゃない
 優しいあんの中にほのかに香るこのさわやかさは……たぶん、シソだ

 それに豆腐ハンバーグというからにはもっとヘルシーさを感じるものだと思ったけれどなかなかにボリューミーでもある
 お肉が混ぜ込んであるのか、それとも……


千早「春香?」

春香「へっ?」

千早「いや……何か悩んでるの?」


 千早ちゃんにもらったハンバーグがおいしすぎて
 というのもなんだか照れくさい気がしたので適当にごまかしてしまった

 しかし、あの味……すごい。半額弁当あなどりがたし


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:38:16.27 ID:QpdAQDVL0 [34/64]
 ―――結局、ゆっくりと食べきってしまった
 美味しかったのだけど、いまさらカロリーが気になってくる

 千早ちゃんはすっごく細いからいいかもしれないけれど……私は


春香「……いや、セーフだよね、セーフ!」

千早「春香?」

春香「な、なんでもないよ! うん!」


 そう、セーフ……のはずだ
 私だってアイドルだもん、同年代の子より細いし! ちょっとぐらいならだいじょーブイ!


千早「……さっきから春香、変よ?」

春香「そ、そんなことないよー? あははー」

千早「もう……相談なら、いつでも乗るから」

春香「う……うん。大丈夫だから、本当に」


 真剣なまなざしで見つめられるとちょっと弱い
 千早ちゃんはクールなようで熱くなるものにはすごく打ち込むタイプだ

 私のことにも、熱くなってくれる……とっても素敵な友達だ


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:44:12.64 ID:QpdAQDVL0 [35/64]
千早「そう……」

春香「ご、ごめんね?」


 悲しそうにうつむいてしまう千早ちゃん
 なんだか罪悪感すらわいてくる

 すっごくくだらないことで悩んでただけなんだけど……
 だからっていまさら『お腹周りのぽっこりが気になる!』とか言いだせる空気じゃないし

 私が元気もらってる側なんだから……なにか、なにか手はないかな
 そこで最高の手に気がつく

 そう、私には手があるのだ……千早ちゃんの頭を撫でてあげれば元気が出るはず!


春香「……千早ちゃん」


 そっと手を伸ばし――――


坊主「ゴホン! エーッホン! ゲフンゲフン!」

春香「あっ」


 逆側に座っている人のことをすっかり忘れていたことに気がついた


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:49:46.81 ID:QpdAQDVL0 [36/64]
※※※

坊主「いやな、俺はいいと思うんだ。でも流石に見せつけられるのはちょっとなぁ」

春香「そ、そういうんじゃないですから! ねぇ千早ちゃん!」

千早「そういうのって……どんなのかしら」

春香「千早ちゃん……」

坊主「……自覚無しか。すごいな」

千早「……?」

春香「ううん、なんでもないよ……なんでもない」

千早「そう、それよりさっきの話の続きなんだけれど」

春香「あっ……そうだったね。ブタとか、その……ちょっぱーもーど? とかってなんなの?」

坊主「順に説明してやるよ。補足はまかせとけ……って、俺はいてもいいのか?」ボソッ

春香「あ、全然お気になさらず……」ボソボソ

坊主「いや……まぁいいならいいんだけどよ」ボソボソ

千早「……?」


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:22:43.53 ID:QpdAQDVL0 [39/64]
千早「話をしてもいいのかしら」

春香「あっ、お願いします! 先生!」

千早「誰が先生よ……もう」

春香「じゃあ、最初の質問……ブタってなんですか?」

千早「豚は……浅ましい生き物よ。誇りも、なにもないただ食うだけの生き物」

春香「う、うん……?」

坊主「あー、補足だ」

春香「はい」

坊主「簡単にいえば……無知であること以上に恥知らずである生き物のこと、だな」

春香「えーっと……」

坊主「たとえば、3割引きのシールの貼ってある弁当を確保したままうろついて半額シールを貼るように半額神に頼んだり」

春香「は、半額神?」

坊主「ん? あぁ……半額シールを、俺たちに恵んでくれる彼らのことを俺たちは感謝をこめてそう呼んでるんだ」

春香「なるほど……」

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:25:30.77 ID:cXQuORQW0 [1/3]
原作は面白いだろうが!
面白いだろうが……


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:28:21.88 ID:QpdAQDVL0 [40/64]
千早「……」ムスッ

春香「あ、千早ちゃんごめんね? それで」

千早「……あのままだと春香が豚として扱われかねなかったから」

春香「あー……あの辺でうろうろしてるのも邪魔だから?」

千早「一度手に取ったものを戻すのもマナー違反ね」

春香「……やってたかもしれない。もししてたら?」

坊主「狼たちは豚を許さない。それこそ徹底的な排除をされる」

春香「排除って……」

千早「だから言ったの……骨ぐらい折られてたかもって」

春香「……」ブルッ

坊主「まぁ、基本的に誇りをもった狼同士はフェアな存在さ……たとえそれがアイドルでもな?」

春香「えっ!?」


101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:35:14.83 ID:QpdAQDVL0 [41/64]
坊主「知ってるぜ? 天海春香も如月千早も大好きだ。ファンと名乗ってもいい」

春香「ちょ、ちょっと待ってください! その、ケガとか暴行とかそういうのは……」

千早「大丈夫よ、春香……此処では普段の名前なんて関係ないの」

春香「えっ、えぇっ?」

坊主「そう。俺が知ってるのは新入りのお嬢ちゃんと≪チョッピング・ボード≫だけさ」

春香「あっ……またそれ! なんなんですか? それ」

千早「……私の、二つ名よ」

春香「二つ名?」

坊主「……あぁ、強い狼にのみその振る舞いや姿からつけられる此処での名前だ」

春香「へぇ……かっこいいよ、千早ちゃん!」

千早「ありがとう……」

春香「?」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:42:03.42 ID:QpdAQDVL0 [42/64]
春香「それで、なんで千早ちゃんはそんな名前がついてるの?」

千早「……いろいろあったのよ、いろいろ」

春香「いろいろって……だってすごい人にしかつかないんでしょ? 千早ちゃんはすごいってことだよね?」

坊主「あー……話してもいいのか?」

千早「……好きにしていいわ」

坊主「そうか……じゃあ、話させてもらうかな」

春香「はい!」

坊主「昔、このスーパーに来たてのころは≪チョッピング・ボード≫も決して強くはなかったんだ」

春香「千早ちゃんが……?」

坊主「誰だって初心者のころはあるもんさ。あんたみたいに最初から戦えるのは珍しい」


104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:48:11.27 ID:QpdAQDVL0 [43/64]
春香「えへへ……それほどでも」

千早「調子に乗ると痛い目を見ることになるから……気を付けたほうがいいわ」

春香「う、うん……それで? 坊主さん、話の続きをお願いします」

坊主「まぁ、そんなある日……流れの二つ名持ちがこのスーパーに現れた」

春香「流れの……?」

坊主「通常、二つ名持ちはどこか1つか2つぐらいのスーパーを拠点にするものなんだ」

春香「なるほど……でも流れのって?」

坊主「理由は様々だけどな。強すぎるだとか、誰かを探しているだとか……だが」

春香「……?」

坊主「そいつは、≪名斬り包丁≫はもう少しゲスなやつだったんだよ」


105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:53:58.19 ID:QpdAQDVL0 [44/64]
春香「なきりほうちょう……?」

坊主「まぁ、二つ名持ちのいないスーパーに現れてはその場にいる全員を倒してから弁当をかっさらう奴だったんだ」

春香「えぇっ、なんでですか?」

坊主「二つ名がつきそうな実力者を育ち切る前に斬りにくるから≪名斬り包丁≫ってことさ。名無しには強かった」

春香「それじゃあ……」

坊主「俺たちもやられてな……まだまだ青かったそいつと、一騎打ちになった」

春香「それで、倒したんですか!?」

坊主「……最初は一方的だったよ、なぶられるぐらいの勢いでな」

春香「……」

坊主「だが、ある瞬間からその包丁の刃は通らなくなった」

春香「……?」

坊主「すべての攻撃を受け、そしていなすその姿は……まさに二つ名持ちにふさわしかったんだ」
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35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:10:39.42 ID:QpdAQDVL0 [14/64]
 男の人が吹っ飛ぶなんて異常事態だ
 ひょっとして誰か危ない人でも混ざってたんじゃ!?


春香「あっ、千早ちゃん!」


 そう、私より早く速く駆けだした千早ちゃんが危ない!
 ケガでもしてたら……いや、それより警察に連絡とかしたほうがいいのかな!?

 心配になって携帯を取り出した時、また一人吹っ飛んだ
 よく見れば、その人がいた場所に立っているのは……


春香「千早……ちゃん?」


 コンサートの時ですら、ここまで激しいダンスはしないのに
 華麗に舞うように人を蹴り飛ばした千早ちゃんが、そこいる

 よくよく見れば、千早ちゃん以外の人達も殴りあったり蹴りあったりしているのもわかった
 女の人も、男の人もいる。異常な空気があたりを包んでいる


春香「ど……どういうこと?」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:22:37.75 ID:QpdAQDVL0 [15/64]
 これは、どういうことなんだろう?
 警察に連絡しようとした手を止めて観察してみる

 ……なるほど、これは弁当の取り合いに間違いないみたいだ
 半額弁当を取る、って話を聞いててっきりスピード勝負なんだと思ってたけれど……
 これはもっと物理的な奪い合いなんだ

 弁当に手を伸ばす人がいれば、別の人がそれを払って自分のものにしようとする
 それをまた邪魔する人が現れて……弁当に遠い人や、弾かれた人へ追い打ちの類はかけられていない


 その争いの中、長い茶髪の女の人が一瞬の隙をついて焼きそば弁当を手にとった
 今にも殴りかかろうとしていた人たちも別の方へと向きを変えその人の道を開ける

 悠然とこちらに向かって歩いてくる茶髪の人は私に向かってそっとささやくとそのままレジへと向かった


茶髪「……新人さん? あなたの友達はがんばっているみたいだけどいかなくていいの?」

春香「……えっ? あっ」


 そうか、なにか違和感があると思ったら……千早ちゃんはお弁当に手を伸ばしてない!
 誰かが伸ばす手を弾くことに集中しているんだ

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:45:20.54 ID:QpdAQDVL0 [18/64]
 千早ちゃんは弁当へと背を完全に向けてしまっている
 これじゃ、とれるはずもない! 私のために……?

 次々と弁当に伸びる手を弾いていくけれど、やっぱり厳しいみたいで少しずつおされているのがわかる
 さっきまであった焼きそば弁当が無くなって人が集中してきてるんだ
 そのうえで私が欲しいっていった竜田揚げ弁当と自分の食べる豆腐ハンバーグ弁当を守るだなんて
 

千早「くっ!」

春香「……いかなきゃ!」


 いつまでもぼーっとみていられない!
 いまさらながらあわてて人ごみに突っ込む

 後ろからいくぶんには、抵抗は少ないみたいだ
 だけどだんだんと周りの圧力が強くなってきているのもわかる

 だけど、まだ進める! 千早ちゃんががんばってくれてるんだから私だって
 私だって、お弁当が食べたい!

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:52:14.01 ID:QpdAQDVL0 [19/64]
 どうにか弁当の見える位置までたどりついた
 ギリギリで持ちこたえている千早ちゃんと目があう


千早「春香……!」

春香「千早ちゃん、ごめん! ありがとう!」


 遅れてしまったことへの謝罪と、守ってくれていたことへのお礼
 それを簡単に伝えると、千早ちゃんは少しだけほほ笑んでくれた

 前へ前へと進んできた道はもう既にうまってしまっている
 あと数歩、それでお弁当に手が届く!


春香「んーっ!」


 そのままの勢いで竜田揚げ弁当へと手を伸ばす……あと、ちょっと
 ビニールに指が触れそうになる、あと、ちょっとだけ

 その時、お腹に強い衝撃を受けて届きかけたお弁当からひきはがされてしまった

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 18:59:31.48 ID:QpdAQDVL0 [20/64]
春香「うぐっ……!?」

坊主「すまねぇな、嬢ちゃん……同じ弁当を狙う以上遠慮は無しだ」


 どうにか体制を整えてそちらを睨む
 最初に吹っ飛んだ坊主の人だ

 本当に遠慮なく叩いてくれたみたいでズキズキする


春香「……私、お腹が減ってます」

坊主「奇遇だな、俺もだよ」


 坊主の人はニヤリと、不敵に笑った
 男だからとか、女だからとかじゃない……この人は強い!


春香「……遠慮しませんよ」

坊主「お互い様だろ」


 少し体勢を低くする
 さっきまで騒がしかった周りは、ほとんどの人が立ち上がれない状態みたいだ

 この人を倒せれば、お弁当が食べられる……!

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:06:43.02 ID:QpdAQDVL0 [21/64]
 ちらりと目をやると、千早ちゃんは豆腐ハンバーグ弁当をとったようだ
 ここから先は、私とこの人の戦いってことなんだろう

 人の手を借りて、とるんじゃなく……自らの手で、勝ち取る!


春香「あぁっ!」

坊主「おぉぉっ!」


 気合を込めた私のパンチが、坊主の人の拳をはじいた
 自分でもどこからこの力が沸いてくるのかわからない

 でも―――楽しい!


春香「まだまだぁ!」

坊主「うおおおぉぉ!」


 パンチの応酬が続くけど、ちょっとずつ私の方がおしてるみたいだ
 あと少し……あと少しで……

 その時だった

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:10:17.21 ID:QpdAQDVL0 [22/64]
顎鬚「あの……正直すまんかった」


 声をかけられて、振り向く


春香「え?」

坊主「あ?」


 そこには、顎鬚の男の人がたっていた

 ―――手に、竜田揚げ弁当を持った状態で


春香「あ……」

坊主「……おい」

 坊主の人が、怒気をはらんだ声ですごんだ

顎鬚「いやな、だってお前らだんだん弁当コーナーから外れるんだもんよ……つい」

坊主「ついじゃねぇ! 勝利の一味はどうした!」

春香「……はは」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:17:09.19 ID:QpdAQDVL0 [23/64]
 そんなわけで、私の初めての弁当争奪戦は敗北に終わる
 ショックで食欲が……なくなるかと思ったけれど身体は正直だ


春香「……お腹すいたぁ」

坊主「あー、今日は災難だったな……まぁ惣菜を選べるだけマシだと思おうぜ」


 さっきまで殴りあっていた坊主の男の人と、軽い会話をする
 なんだか不思議な気分だ。すがすがしさすら感じてしまう


春香「もー、卑怯ですね顎鬚さん!」

顎鬚「うっ……腹が減ってて……」

坊主「まったく、だらしねぇな?」

顎鬚「だがなぁ、周りの確認を怠ったのはお前だろ? そっちのお嬢ちゃんはともかく……」

坊主「それはそうだけどよ」


 冗談も言えるぐらいだ。すごい……半額弁当って、すごい!

 ……そんなことを思いながら、お惣菜でおにぎりとナスのてんぷらを
 さらにカップ麺コーナーでどんべえを買った 


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:26:09.96 ID:QpdAQDVL0 [24/64]
千早「……残念だったわね、春香」

春香「千早ちゃん……」

 レジの向こう側で、千早ちゃんは待っていてくれた
 どうやら何があったかはわかるらしい

千早「初めからうまくいくことなんてないわ……すごかった」

春香「うん……私、おちこんでるんじゃないよ?」

千早「え?」

 千早ちゃんは私がへこんでいるんだと思って励ましてくれたけれど落ち込んでなんかいない
 次回への燃えあがる思いが、胸の中にあるだけだ

春香「……すごいんだね、半額弁当って」

千早「……えぇ」

 私は認識を改めた
 半額弁当は、少なくともくだらないものじゃないって

 きっと、次回こそ私は勝って、買ってみせると
 そう決意した時、千早ちゃんのお弁当を温めていたレンジが高い音を鳴らして温め完了を知らせた


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:35:39.75 ID:QpdAQDVL0 [25/64]
千早「……春香、そこのベンチで食べましょうか」

春香「うん」


 外のスペースに腰かけて空を見上げる
 満天の星……なんてものは見えないけれど、なんだか輝いている気がした


千早「春香は……いいセンスをしてると思う。初めてなのに腹の虫の加護まで受けてた」

春香「腹の虫……?」

千早「えぇ、腹の虫」


 聞き覚えのない単語について質問してみたけれど、オウム返しにまた戻されてしまった
 私の聞き方が悪かったのかと思って、もう一度聞こうと思った時、さっきの坊主の人がそばに来た


坊主「……よう、いいか?」

千早「春香がいいのなら」

春香「あ……どうぞ?」

坊主「ありがとよ」

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:46:14.53 ID:QpdAQDVL0 [26/64]
坊主さんはそのまま私の隣に腰をおろして話を始める


坊主「流石は≪チョッピング・ボード≫の知り合いってところか」

千早「いいえ、これは私がどうこういったからじゃないわ……来たの自体偶然だったのだし」

坊主「……だから最初あんなに不審な行動を? 豚かと思ったぜ」

春香「ぶ……ぶたって、ひどくないですか?」


 私だって乙女だ
 ブタ呼ばわりされていい気分にはならない

 抗議しようと思った時、千早ちゃんに静かに止められた


千早「春香……最初に言ったことは覚えてる?」

春香「最初って……えーっと」

千早「知らなかったのよね……なにも」


 あぁ、最初ってあの急に手をひかれた件のことか
 私は納得して、肯定の意味を込めてうなづいた


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 19:53:53.94 ID:QpdAQDVL0 [27/64]
春香「う……うん。何か意味があるの? それに、さっきから千早ちゃんが呼ばれてるちょっぴんぐぼーどって?」

千早「……話してもいいんだけれど。それよりも」

坊主「腹減ったんじゃなかったのか? 伸びるぞ、どんべえ」

春香「あっ!?」


 まずい、すっかり忘れかけてた
 千早ちゃんが温め終わってからだから……若干伸びてる?

 不安に思いつつもぺりぺりとどんべえの蓋をはがすと、おいしそうな出汁の香りと湯気がたちのぼってくる
 さすがどんべえだ。多少長くおいておいてしまった程度では風味もつゆも失われていない


春香「だいじょうぶそう……かな?」

千早「そう……よかった。私も食べようかしら」


 そういって千早ちゃんがお弁当のふたをあける
 温められふたの裏に溜まっていた水分が塊となってふたの裏を伝って千早ちゃんの服にしたたった

 普段ではなんでもないその程度のことが、やたら艶やかにみえる
 これも、お腹が減っているからなんだろうか?


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:00:23.45 ID:QpdAQDVL0 [28/64]
千早「……? 春香?」

春香「あっ、ごめん! なんでもないよ?」


 そう、なんでもない。ちょっとお腹が減ってるだけだ

 割り箸を割って、おあげが汁を吸うように軽く押し込む
 さらにそこへさっき買ったてんぷらを放り込んだ

 どんべえの上に置いておいたおにぎりも、外側だけがほのかに温かい

 十分に豪華……とはいえないまでも、ちゃんと晩ご飯の体はなしていた


春香「……うん、いただきます!」

千早「じゃあ私も……いただきます」

坊主「いただきます」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:07:09.68 ID:QpdAQDVL0 [29/64]
春香「んんー! やっぱりどんべえはおいしいなぁ」


 ずいぶんとひさしぶりに食べた気がするけれど、どんべえのその味は変わってなかった
 優しいお出汁に甘めのおあげ。つゆをたっぷり吸ったそれはかじれば期待通りの味を返してくれる

 むしろ、以前に食べた時よりおいしいような気もする
 これもお腹が減っているからだろうか?
 ―――いや、違う


春香「これも、絶え間ない研究の結果か……私ももっと頑張らなきゃ」


 そう、うどんの麺のコシが増しているんだ
 ちょっと長くおいてしまったのにそのコシは失われていない
 これも、よりおいしいものを届けようというメーカーの人達のおかげでもたらされたんだ

 よりいいパフォーマンスを届けようと努力する私達アイドルに通じるものを感じる

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:14:50.94 ID:QpdAQDVL0 [30/64]
千早「春香……」

春香「どうしたの、千早ちゃん?」


 千早ちゃんが若干いぶかしげな目でこちらを見ている

 さては千早ちゃんはどんべえをあまり食べ慣れていないんじゃないだろうか?
 それで、私の感動が伝わっていないんじゃないだろうか?
 それはいけない。もったいない


千早「……いえ、なんでもないわ」

春香「遠慮しなくてもいいよ? ひとくちわけてあげましょー!」

千早「そういうことじゃ……んっ」


 なにかいいかけた口へと汁に浸して柔らかさを持ちつつまだ表面のサクサク感は残した
 最高の状態のちくわのてんぷらを突っ込んだ

 千早ちゃんはまだ何か言いたげな表情はしていたけれど、静かに噛み切るとそのまま咀嚼しだす
 うんうん、素直が一番だよね!


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:24:01.07 ID:QpdAQDVL0 [31/64]
千早「……ん、確かにたまにはいいわね」

春香「でしょ?」


 ある程度噛んだあと、千早ちゃんはちくわを飲み込んだ
 不満げな表情も和らいだようでなによりだ

 おいしいものはいいものだ。生きるってすばらしい!

 ……千早ちゃんのお弁当もおいしそうだなぁ


千早「……春香」

春香「あっ、なぁに千早ちゃ……んっ」

千早「おかえしよ」

春香「……んん」


 私の口の中へ千早ちゃんが箸を入れた
 もちろん、箸だけを突っ込むなんていういやがらせじゃなく……これは


春香「おいひい……」


81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:30:34.11 ID:QpdAQDVL0 [32/64]
千早「……ふふ、気に入ったならなによりよ」


 千早ちゃんがいたずらっぽく笑う
 豆腐ハンバーグをひとくちサイズに切って口の中へ入れてくれたみたいだ

 最初は、上にかかっているとろみをおびたあんの風味だけを感じたけれどそれだけじゃない
 優しいあんの中にほのかに香るこのさわやかさは……たぶん、シソだ

 それに豆腐ハンバーグというからにはもっとヘルシーさを感じるものだと思ったけれどなかなかにボリューミーでもある
 お肉が混ぜ込んであるのか、それとも……


千早「春香?」

春香「へっ?」

千早「いや……何か悩んでるの?」


 千早ちゃんにもらったハンバーグがおいしすぎて
 というのもなんだか照れくさい気がしたので適当にごまかしてしまった

 しかし、あの味……すごい。半額弁当あなどりがたし


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:38:16.27 ID:QpdAQDVL0 [34/64]
 ―――結局、ゆっくりと食べきってしまった
 美味しかったのだけど、いまさらカロリーが気になってくる

 千早ちゃんはすっごく細いからいいかもしれないけれど……私は


春香「……いや、セーフだよね、セーフ!」

千早「春香?」

春香「な、なんでもないよ! うん!」


 そう、セーフ……のはずだ
 私だってアイドルだもん、同年代の子より細いし! ちょっとぐらいならだいじょーブイ!


千早「……さっきから春香、変よ?」

春香「そ、そんなことないよー? あははー」

千早「もう……相談なら、いつでも乗るから」

春香「う……うん。大丈夫だから、本当に」


 真剣なまなざしで見つめられるとちょっと弱い
 千早ちゃんはクールなようで熱くなるものにはすごく打ち込むタイプだ

 私のことにも、熱くなってくれる……とっても素敵な友達だ


86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:44:12.64 ID:QpdAQDVL0 [35/64]
千早「そう……」

春香「ご、ごめんね?」


 悲しそうにうつむいてしまう千早ちゃん
 なんだか罪悪感すらわいてくる

 すっごくくだらないことで悩んでただけなんだけど……
 だからっていまさら『お腹周りのぽっこりが気になる!』とか言いだせる空気じゃないし

 私が元気もらってる側なんだから……なにか、なにか手はないかな
 そこで最高の手に気がつく

 そう、私には手があるのだ……千早ちゃんの頭を撫でてあげれば元気が出るはず!


春香「……千早ちゃん」


 そっと手を伸ばし――――


坊主「ゴホン! エーッホン! ゲフンゲフン!」

春香「あっ」


 逆側に座っている人のことをすっかり忘れていたことに気がついた


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 20:49:46.81 ID:QpdAQDVL0 [36/64]
※※※

坊主「いやな、俺はいいと思うんだ。でも流石に見せつけられるのはちょっとなぁ」

春香「そ、そういうんじゃないですから! ねぇ千早ちゃん!」

千早「そういうのって……どんなのかしら」

春香「千早ちゃん……」

坊主「……自覚無しか。すごいな」

千早「……?」

春香「ううん、なんでもないよ……なんでもない」

千早「そう、それよりさっきの話の続きなんだけれど」

春香「あっ……そうだったね。ブタとか、その……ちょっぱーもーど? とかってなんなの?」

坊主「順に説明してやるよ。補足はまかせとけ……って、俺はいてもいいのか?」ボソッ

春香「あ、全然お気になさらず……」ボソボソ

坊主「いや……まぁいいならいいんだけどよ」ボソボソ

千早「……?」


95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:22:43.53 ID:QpdAQDVL0 [39/64]
千早「話をしてもいいのかしら」

春香「あっ、お願いします! 先生!」

千早「誰が先生よ……もう」

春香「じゃあ、最初の質問……ブタってなんですか?」

千早「豚は……浅ましい生き物よ。誇りも、なにもないただ食うだけの生き物」

春香「う、うん……?」

坊主「あー、補足だ」

春香「はい」

坊主「簡単にいえば……無知であること以上に恥知らずである生き物のこと、だな」

春香「えーっと……」

坊主「たとえば、3割引きのシールの貼ってある弁当を確保したままうろついて半額シールを貼るように半額神に頼んだり」

春香「は、半額神?」

坊主「ん? あぁ……半額シールを、俺たちに恵んでくれる彼らのことを俺たちは感謝をこめてそう呼んでるんだ」

春香「なるほど……」

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:25:30.77 ID:cXQuORQW0 [1/3]
原作は面白いだろうが!
面白いだろうが……


98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:28:21.88 ID:QpdAQDVL0 [40/64]
千早「……」ムスッ

春香「あ、千早ちゃんごめんね? それで」

千早「……あのままだと春香が豚として扱われかねなかったから」

春香「あー……あの辺でうろうろしてるのも邪魔だから?」

千早「一度手に取ったものを戻すのもマナー違反ね」

春香「……やってたかもしれない。もししてたら?」

坊主「狼たちは豚を許さない。それこそ徹底的な排除をされる」

春香「排除って……」

千早「だから言ったの……骨ぐらい折られてたかもって」

春香「……」ブルッ

坊主「まぁ、基本的に誇りをもった狼同士はフェアな存在さ……たとえそれがアイドルでもな?」

春香「えっ!?」


101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:35:14.83 ID:QpdAQDVL0 [41/64]
坊主「知ってるぜ? 天海春香も如月千早も大好きだ。ファンと名乗ってもいい」

春香「ちょ、ちょっと待ってください! その、ケガとか暴行とかそういうのは……」

千早「大丈夫よ、春香……此処では普段の名前なんて関係ないの」

春香「えっ、えぇっ?」

坊主「そう。俺が知ってるのは新入りのお嬢ちゃんと≪チョッピング・ボード≫だけさ」

春香「あっ……またそれ! なんなんですか? それ」

千早「……私の、二つ名よ」

春香「二つ名?」

坊主「……あぁ、強い狼にのみその振る舞いや姿からつけられる此処での名前だ」

春香「へぇ……かっこいいよ、千早ちゃん!」

千早「ありがとう……」

春香「?」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:42:03.42 ID:QpdAQDVL0 [42/64]
春香「それで、なんで千早ちゃんはそんな名前がついてるの?」

千早「……いろいろあったのよ、いろいろ」

春香「いろいろって……だってすごい人にしかつかないんでしょ? 千早ちゃんはすごいってことだよね?」

坊主「あー……話してもいいのか?」

千早「……好きにしていいわ」

坊主「そうか……じゃあ、話させてもらうかな」

春香「はい!」

坊主「昔、このスーパーに来たてのころは≪チョッピング・ボード≫も決して強くはなかったんだ」

春香「千早ちゃんが……?」

坊主「誰だって初心者のころはあるもんさ。あんたみたいに最初から戦えるのは珍しい」


104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:48:11.27 ID:QpdAQDVL0 [43/64]
春香「えへへ……それほどでも」

千早「調子に乗ると痛い目を見ることになるから……気を付けたほうがいいわ」

春香「う、うん……それで? 坊主さん、話の続きをお願いします」

坊主「まぁ、そんなある日……流れの二つ名持ちがこのスーパーに現れた」

春香「流れの……?」

坊主「通常、二つ名持ちはどこか1つか2つぐらいのスーパーを拠点にするものなんだ」

春香「なるほど……でも流れのって?」

坊主「理由は様々だけどな。強すぎるだとか、誰かを探しているだとか……だが」

春香「……?」

坊主「そいつは、≪名斬り包丁≫はもう少しゲスなやつだったんだよ」


105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/06/14(木) 21:53:58.19 ID:QpdAQDVL0 [44/64]
春香「なきりほうちょう……?」

坊主「まぁ、二つ名持ちのいないスーパーに現れてはその場にいる全員を倒してから弁当をかっさらう奴だったんだ」

春香「えぇっ、なんでですか?」

坊主「二つ名がつきそうな実力者を育ち切る前に斬りにくるから≪名斬り包丁≫ってことさ。名無しには強かった」

春香「それじゃあ……」

坊主「俺たちもやられてな……まだまだ青かったそいつと、一騎打ちになった」

春香「それで、倒したんですか!?」

坊主「……最初は一方的だったよ、なぶられるぐらいの勢いでな」

春香「……」

坊主「だが、ある瞬間からその包丁の刃は通らなくなった」

春香「……?」

坊主「すべての攻撃を受け、そしていなすその姿は……まさに二つ名持ちにふさわしかったんだ」
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【2012/06/16 22:25】 | 2ちゃん
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